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大阪高等裁判所 昭和28年(う)2416号 判決 1954年8月05日

控訴人 被告人 菅本長吉

弁護人 田口治国

検察官 志保田実

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金二万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

弁護人田口治国の控訴趣意について。

原判決において、被告人がその生産にかかる昭和二七年度産米四石四斗三升を政府に売渡さなかつたという、いわゆる供出義務不履行の事実を認定し、押収にかかる玄米一石及び籾二〇四瓩を没収したことは所論のとおりである。

ところで原判決が、右玄米等を没収するについて、刑法第一九条第一項第三号を適用しているところをみると、原審は恐らく右玄米等をもつて、犯罪行為から生じもしくは犯罪行為によつて得たものと解したものと思われるのであるが、同条項にいわゆる犯罪行為により生じまたはこれにより得たものというのは、その物が当該犯罪行為を原因として生成し、または犯人がその物を取得するに至つた原因が当該犯罪行為である場合をそれぞれ指称するものであり、不作為が犯罪行為であるような場合において、単に作為義務の対象となるに過ぎない物のごときは以上いずれにも該当しないものと解するのが相当である。

しかるに記録によると、右玄米等は、昭和二八年五月七日被告人方に存在したものを押収したものであつて、供出義務の対象となるのは格別、不供出罪の本質たる供出義務不履行という不作為によつて生成したものでないのはもちろんであり、また不供出罪の成立が供出義務を免れさせるものでもないから不供出に基因して被告人が取得したというような関係でもない。従つて前記没収の要件を充たすものとはいえないから、原判決が刑法第一九条第一項第三号第二項を適用して没収したのは判決に影響すべき違法があるものといわねばならない。論旨はその理由がある。

よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書に従い原判決を破棄し自判すべきものと認めさらに裁判をする。

原判決が証拠により認定した事実にその摘示した各法条(刑法第一九条第一項第三号第二項を除く)を適用して主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

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